ケルバーダイン メージャ バトルストーリー第24話「辺境の測量士」

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メージャ バトルストーリー(MC0003年 『辺境の測量士』)

ミキシングワールドのはるか南西の辺境で、新たなハンドレッドが発見された。

その報は瞬く間に広がり、ミキシングワールド中から一山当てようと集まってきたケルバーたちで賑わっている。

「ダー・イソー型か………」

巨大な建造物の壁面に刻まれた、古代文字がわずかに読み取れた。

二階層に分かれており、一階が旧人類の食料品販売店、二階がハンドレッドになっているようだ。

混合型ハンドレッドだ。

変わった採掘品も多い。

「879mmか。121mmズレている。このラインが、建物の基盤となる。誤差は許されない」

測量した数値を1mm単位で確認していく。

私は測量士だ。ミキシングワールド中を渡り歩き、各地の都市建設のために測量をしてきた。

私が騎乗するケルバーダイン……メージャは測量用に作られたものだ。

胴体に収納されたメジャーが、静かに、そして正確に伸び、地表を這う。

最大1500mmまで計測可能だが、旧人類の遺跡である、ハンドレッド型資源採掘遺跡の測量では少し力不足だ。開拓村ぐらいなら、これぐらいで十分なのだが。

回数を分け、長大な距離を計測する。

私は、物体の正確な大きさがわかる瞬間が好きだ。

数字は嘘をつかない。

明日、何が起こるかわからない、この混沌としたミキシングワールドでも、計測した数値だけは変わらないからだ。

測量は世界に秩序をもたらす。

それが、私の信念だ。

思えば、遠くに来たものだ。故郷のヤーミダを離れて、どれぐらいの年月が経っただろう?

「きゃああああああああああ!!!」

「喧嘩だ!ケルバーダイン同士の喧嘩だあっ!」

その時だった。けたたましい悲鳴が、私の快い測量を打ち破った。

「てめぇ!このHNGランスは俺のだ!獲物を横取りするんじゃねえ!」

「うるせえ!俺が先に見つけたんだ!そっちが勝手に割り込んできただろうが!」

血の気の多い大工たちが、都市建設用の作業用ズーブンに騎乗したまま喧嘩を始めたのだ。

HNGランスは高値で売れる。

開発が始まったばかりのハンドレッドは宝の山で、発掘品の取り合いが戦闘に発展するのは決して珍しくはない。

この光景は、過去に何度も見てきた。

2体のズーブンはGCHカプセル製の丸い胴体をぶつけ合う。

積み上げられたLBDボトルがひっくり返り、ゴロゴロと転がっている。

これでは正確な測量など不可能だ。

私はメージャを動かし、彼らの間に割って入った。

「作業に戻れ。測量は、正確さが何よりも重要だ。お前たちが騒ぐと、目盛がズレる」

私の当然の要求は、しかし、彼らの熱くなった頭には届かなかったようだ。

「なんだ、この古臭いハゲチョロ野郎は!」

「邪魔するんじゃねえ!測量技師の分際で!」

興奮した作業員たちは、その矛先を私とメージャに向け、襲いかかってきた。

ズーブンが巨大なHNGランスを振り翳し、突進してくる。

「愚かな……」

私は呟くと、メージャの胴体からメジャーを素早く射出した。メジャーは宙を舞い、近くの旧人類の巨大な建造物の壁に張り付く。

シュッ、ドン!

メジャーを高速で巻き取り、その反動で一瞬にして宙に浮き上がり、ズーブンの攻撃を軽々と回避する。

その機敏な動きに、ズーブンたちは驚き、唖然としている。

「な、なんだ、今の動きは!?」

「あんなメジャーで……!?」

私は間髪入れずに、右腕のSHPペンシルを伸ばし、一体のズーブンの脚部を巧みに引っ掛けた。バランスを崩したズーブンが、情けない悲鳴を上げて転倒、ゴロゴロと転がっていく。

「なっ!」

そして、もう一体のズーブンに、再射出したメジャーを高速で巻き付ける。

グルグルグルッ!

メジャーはズーブンの胴体に巻きつき、その動きを完全に封じた。

まるで蜘蛛の巣にかかった昆虫のように、ズーブンはもがくことしかできない。

「いい加減にしろ。私の測量を邪魔する者は、絶対に許さない」

そのときだった。

ゴロゴロゴロ……

丸いものが転がる、独特の音と共に、一機のケルバーダインが近づいてくる。

ガルダカだ。死者の姿を持つ、バモリカ族のケルバーダインだ。

「ここでの喧嘩は無用だぞ、兄弟たち」

ガルダカのゼノアイの奥から、バモリカ族特有の落ち着いた声が響いた。彼はガルダカの巨大なクローで転倒したズーブンを優しく起こし、メジャーで拘束されたズーブンを解放した。

「許してください!」

「もう喧嘩はしません!」

エジェクターから射出された作業員が、頭を地に伏せて謝罪している。

「分かれば良い。作業に戻れ」

あたふたと、作業員はズーブンに再び騎乗し、いそいそと作業を再開する。

「迷惑をかけたな、測量技師殿。礼を言う」

いつの間にか、ガルダカから降りたのか。

髑髏の姿をした、若いバモリカ族が頭を下げている。相変わらず、彼らはどこに行っても、礼儀正しい。

「彼らにとって、HNGランスは貴重品だ。あれ一本で、1年は暮らせる。許してやってほしい」

だが、バモリカ族が、なぜここにいるのか?

彼らは葬儀屋だ。

死があるところに必ず訪れる。

作業員たちの戦いで死者が出る可能性があると、本能的に嗅ぎつけたからだろう。

それが、少し、私の気に触った。

「それはもういい。………だが、一つ言わせていただこう。バモリカ族は、死者を弔い、その記憶を継承する役割を果たしている。そうだな?」

「その通りだ」

「だが、生者の調和を保ち、無用な死者が出るのを防ぐのも、同様に重要ではないか? あの作業員の喧嘩ぐらいなら、君でも止められたはずだ。だが、君は動かなかった」

私の言葉に、バモリカ族は一瞬、ハッとしたような表情を見せた。

「……確かに、その通りだ。私は、一族の使命にこだわるあまり、ケルバーとして大事なことを忘れていた。争いは、生者の心を蝕む。生者が死者にならぬよう、尽力すべきだった」

若いバモリカ族は深く項垂れた。

「測量作業の邪魔をするようなことがあれば、またこのKSDメジャーで止める。だが、君の活動が、この地で生きるケルバーたちの平穏に繋がるのなら、喜んで協力しよう」

「ありがとう、測量技師殿」

バモリカ族はそう言うと、ガルダカの三つの車輪をゴロゴロと転がしながら、その場を去っていった。

彼の背中を見送りながら、私は静かに、測量棒を地面に突き刺す。

メジャーが再び伸び、この広大な建造物に、新たな都市の青写真を正確に描いていく。

ここは、どんな街になるのだろうか?

メージャ機体解説



メージャは、都市や道路の建設のために開発された、高精度測量用ケルバーダインである。

その最大の特徴は、胴体中央部に格納された伸縮自在のKSDメジャーである。

KSDメジャーはメージャの核となる機能であり、その名の由来となっている。

旧人類の遺跡から稀に発掘され、最大1メートル50センチもの長大な距離を極めて正確に計測できる。
このメジャーは、測量作業において地形や建築物の配置を精密に把握するために不可欠なツールである。
本来は測量用だが、その驚異的な強度と伸縮性から、戦闘時において予期せぬ副産物的な効果を発揮することが判明している。

高速で展開・収納することで、敵の攻撃を高速回避する機動性を発揮するほか、振り回すことで敵ケルバーダインの装甲を切り裂く切断能力を持つ。


さらに、敵ケルバーダインに巻き付けることで動きを封じる拘束能力も備える。

ごく稀に、10メートル以上もの長さを計測できる特別なメジャーが発掘されることがあるという。
この希少なメジャーを搭載した強化版のメージャは極めて高い能力を持つが、いかんせん個体数が少なく、高価なケルバーダインとなっている。

右腕にはSHPペンシルが装備されている

SHPペンシルは旧人類の遺跡から多数発掘される棒状の構造物で、文字を書くために使われていたと考えられている。

一般的に「S芯」と呼ばれるSHPペンシルの芯はミキシングワールドではケルバー用の筆記用具として広く使われている。

本来は測量数値の記録用だが、長さを活かして敵を引っ掛けたり、S芯を射出して敵に攻撃することも可能だ。

このメージャのRICには「ハゲチョロ」が施されている。

これはシルバーで雨垂れのような独特の色ハゲを書き込む手法で、RIC理論黎明期に開発された技法だ。

一時期は「古臭い」「リアルではない」との批判により姿を消していたが、独特の表現が再評価され、近年再び人気が高まっている

メージャはミキシングワールド各地の建設現場で見られ、その働きは、世界を再生構築する上で、欠かせない存在となっているのだ。

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この記事を書いた人

徳島県三好市三野町生まれ
2005年より模型専門誌月間ホビージャパン編集部に所属
プラモデルを作る専門家「プロモデラー」として、公私共に3000体を超えるプラモデルを制作
プラモデル技法書「ガンプラ凄技テクニック」シリーズ6冊を執筆
「誰もが、思い切り自由に作れる作れる模型」をテーマに、ケルバーダインの制作、普及活動に奮闘中

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