バリゴ ・バーリンド バトルストーリー(MC40年『日時指定宅急便』)
「ギチッ!ギチギチギチギチッ!ギチッ!」
食欲旺盛なギチが群れをなし、俺をディナーにしようと追いかけてくる
ここはミキシングワールド南西に位置するローケ・ブロクーフ大遺跡地帯のど真ん中。
まともな神経の持ち主ならば絶対に足を踏み入れない、未開拓の超危険地帯だ。
もちろん、なにも好き好んでこんな場所にいるわけではない。
リザレクトの事実上のトップである、ギガセンチネル教皇から託された、特別な荷物を王都リザレクティアから運んでいるのだ。
荷物はなんの変哲も無いLBDボトル……ということになっているが、厳重に封印が施されている。
中にぶっそうなものが入っているのは間違いない…… 知りたくも無いが。
教皇はバーリンド族の族長である俺を直々に指名し、この「お荷物」を辺境のハンドレッド、ダー・イソー139へと10日後の午前中必着で送り届けることを求めた。
無茶苦茶な要求だ。どんなに速達料金をもらっても、20日はかかる道のりだ。
そのうえ、リザレクト王都であるリザレクティアから、ダー・イソー139へと向かう唯一のルートであるヨミニン幹線道路の第33ゲートはすでにエグゼクト軍に占拠され、完全に封鎖されている。
第33ゲートを避けると、危険な野生動物が野放しになっている、未開拓のコルクロック大遺跡地帯を抜けるしかない。
この難所を強行突破するには、俺たちバーリンド族が使う機動力に秀でた移動用ケルバーダイン、バリゴ以外には不可能なのだ。
「ギチッ!ギチギチッ!」
教皇への呪いの文句を考えていたら、ギチに追いつかれてしまった。
カサカサ、といやらしい音と共にあっという間にまとわりついて、バリゴの隙間に入り込んでくる
リザレクティアで純粋培養されているケルバーであれば、一瞬で人格情報が蒸発しているだろう
何匹かギチを踏み潰し、バリゴの脚力で遠くに蹴飛ばす。
またたく間に仲間の死骸に群がるギチを尻目に、全速力で離脱する。
いくら3日間ぶっ続けで走り続けて疲れ切っているとはいえ、バリゴに騎乗していながら、ギチごときに追いつかれたと知れたら……
きっと死んだバーリンド爺さんが化けて出てきて、子供の頃に味わった地獄のトレーニングを10倍のボリュームで食らうことになるだろう。
それに比べたら、教皇の無理難題など屁でもないような気がしてきた。
真紅に染まった俺のバリゴは親父の魂をエグゼクスした特別製だ。
『赤は速さの証だ』
袂を分かったかつての友人の言葉を思い出す。
普通のケルバーダインなら着地の衝撃だけでバラバラに砕け散りかねない、旧人類が使っていた巨大な階段をエジェクターをふかしながら、猛スピードで駆け下りる。
急速に後ろに流れていく景色とは裏腹に、頭の中で冷静に脱出までの距離を計測していく。
これなら、あと1日もせず大遺跡地帯を抜けられるだろう。
厄介な荷持とはとっととおさらばするのが、この仕事で生き延びるコツななのだから。
バリゴ・バーリンド機体解説
バリゴはエグゼクト10氏族の一つ「バーリンド族」が使用する、高速移動に特化したケルバーダインである。
AD2360年に開発された初代バリゴから数々の改良が重ねられ、当時と比べると性能は大幅に上昇している。
最大の特徴は巨大な歩行器である。
この歩行器により高いジャンプ力を誇り、幹線道路の整備されていない未踏の遺跡地帯や山間部など高低差の激しい地形でも踏破可能なのだ。
この歩行器は一見脚に見えるが、実は腕である。
長い脚部はミキシンクロレートの上昇を促し、連続活動時間が大幅に低下してしまう。
腕部を歩行器とすることで人体から離れたプロポーションとし、ミキシンクロレートの上昇を抑えているのである。
胴体下から二本突き出た突起部が脚部ユニットなのだ。
電子通信が不可能なミキシングワールドにおいて、情報や物資の輸送は物理的な移動手段に頼るしかない。
バーリンド族とバリゴはミキシングワールドの物流や交易において、多大なる役割を果たしているのだ。
このバリゴはバーリンド族の3代目族長、ブロダグツが騎乗しているもので、氏族名「バーリンド」が冠されている。
MC35年のエグゼクト殲滅戦で戦死した二代目族長のバリゴから数多くのパーツをエグゼクスしており、一般のバーリンド族が用いるバリゴよりもはるかに長い連続活動時間と機動力を誇る。
光沢のある赤、輝く金属色はより速度を高めるため、旧人類が移動用に使っていた車を模したプラモデルである「カーモデル」の光沢塗装がRICされている。
バーリンド族はヴィス族と共にミキシングワールドの物流や情報伝達を担っており、MC30年にリザレクトとエグゼクトの「完全戦争」が始まっても公益的な立場から中立を貫いていた。
だが、MC35年にヴィス族がエグゼクト傘下に入り、大総統ぜノヴァはバーリンド族へも従属を強要。
エグゼクト勢力圏の数多くのバーリンド族が捕らえられ、悪名高い強制収容所「ギウ・キョクラッブ」送りにされた「バリゴ狩り」がきっかけとなり、バーリンド族はリザレクトへと保護を求めることになった。
バーリンド族はバリゴの機動力を活かして偵察や伝令、兵站などでリザレクト軍に大きく貢献しているものの、リザレクト上層部からはその出自ゆえ自国のケルバーよりも低く見られている。
族長ブロダグツは教皇へと従属する弱腰な態度を一族から非難されており、部族内での求心力を失いつつある。
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