バリゴ バトルストーリー(AD2364年『遅いか?早いか?だけの違い』)
曇天の空は濃さを増し、やがて雨となる。
大粒の雨が地面を撃つ。
雨は5センチにしか満たないは我々にとって厄災だ。
雨脚が強くなれば、溢れる水でちっぽけなケルバーはアリのように押し流されてしまう。
だが、雨降り続けるこの灰色の世界は救いだった。
あの地獄のような炎をまたたく間に消し去ったのだから。
災厄の痕跡が周囲に散乱し、作業用ケルバーダインたちが残骸を処理している。
雨音が煩いのが救いだ
生き残ったものたちの叫び声を聞かなくて済むのだから
シェラルドさんの引き起こした事件はエグゼクト革命軍に深い亀裂を入れた
ドルトガでバテスを破壊した直後、グリトはグロッフ当局に拘束され、エグゼクト革命軍の総責任者として明日、グロッフ中央広場で処刑されることになった
今、私は彼を見ていた。
グロッフは腐敗している。牢番に賄賂を渡して潜入するのは造作もないことだった。
牢獄に閉じ込められたグリトは自分自身を捨てていた
彼の眼にはなんの未来も映っていなかった。
だからこそ、私は彼の前に現れる。彼に話すべきことがあった。
「シェラルドさんが生きているかもしれない」
グリトの顔が歪む。
「バーリンド、こんなところまで冗談を言いに来たのか?母さんは僕が殺した。見ただろう?真っ二つに吹っ飛んだんだぞ!」
「そうだ。そしてバテスの上半身は見つかっていない」
「燃えたに決まっているだろう!」
「グロッフ守備隊はシェラルドさんの情報を得るために、ブリアードにバテスの下半身のパーツを装着し、エグゼクスを試みた。しかし、シェラルドさんの記憶や力が受け継がれることはなかった」
「なっ…!」
ケルバーダインに騎乗したまま搭乗者が死亡した場合、機体には搭乗者の情報が染み込んだままになっている。その部品をケルバーダインに組み込み、インすれば騎乗者にその力や記憶の一部が受け継がれる。子供でも知っている、「エグゼクス」だ。
エグゼクスが起きなかった。
それは、シェラルドさんが生きているということだ。
驚き、混乱、恐慌。グリトの顔色が目まぐるしく変わる。
「歪つに歪んだ、見たこともないケルバーダインがグロッフ北東部から第3再生区域方面へと向かった目撃情報がある。その先にあるのは……」
「箱庭都市スフィアエッグ……」
「そうだ。シェラルドさんの、そしてお前の故郷だ。」
そして私はグリトに問いかける。
「一緒に来い。このままで、いいのか」
グリトは教え黙ったまま、動かない。
彼で猛烈な感情が渦巻いている。
悩んだときはいつもこうなる。
彼がやっと重い口を開いた
「僕は行かない。僕は生贄だ。僕が逃げたら、グロッフはエグゼクト革命軍の仲間に報復する」
「グリト!」
「母を殺した僕に生きる資格は無い。もう、終わりにしたいんだ……」
「本当に、それでいいのか」
牢の隙間に手をつっこみ、頭を垂れたグリトの胸ぐらを引き寄せ、掴み上げる。
グリトな小柄な体が宙に浮く。
「お前が死んでも、何も解決しない。 お前が処刑されたら、エグゼクト革命軍は求心力を失ってバラバラになる。みんな外に放り出されて、なにもできずに虫のエサになる。そして……シェラルドさんが生きていたら、もっと恐ろしいことがおこる。シェラルドさんはそういうケルバーだ」
「それは僕じゃなくてもいいだろう? みんな僕に役割を求めている。何がエグゼクト革命軍だ。盗賊に毛が生えただけじゃないか。ギチのエサになるのが10年前か、明日か、それだけの違いだよ」
足をぶらつかせながら、皮肉に満ちた物言いをする。
本人は認めないが、いじけているときのグリトはシェラルドさんそっくりだ。
グリトとは長い付き合いだ。こうなったら、絶対に自分からは動かない
だから、無理やり動かす
フン!と力を込め、牢をぶち壊し、グリトを引きずり出して肩に担ぐ。
「お前を連れて行く」
「バーリンド、聞いていたの? 僕がいなくなれば、グロッフの連中はエグゼクト革命軍を……」
「俺にとって一番大切なのはお前だ」
「やめろ!みんな死ぬんだぞ!」
「いいじゃないか。ギチのエサになるのが遅いか、早いかだけの違いなんだろう?」
手足をバタつかせて抵抗するが、俺の力に敵わない。
「俺はお前に生きていてほしい……」
腕に感じる、グリトの抵抗が少しずつ、弱くなっていく。
それは、彼が生きるという選択をした証だった。
「うわああああああああ!!!!」
グリトはスフィアエッグへ行くことを望んだ。
だが、シェラルドさんらしきケルバーダインが向かった、箱庭都市スフィアエッグへと続く第3再生区域のルートはすでにグロッフ守備隊より封鎖されていた。
スフィアエッグへと向かうには必ずここを通らなければならない。
だが、俺のバリゴならば。
「ぎゃあああああああああああ!!!!」
フンッ!と腕に力をこめ、勢いよく跳躍する。
誰も近づかない、グロッフの北部の旧人類の居住遺跡。
普通のケルバーダインであればとても登れないような段差につかまり、越え、駆け上がる。
「ひいいいいいいいいいいい!!!!」
ここを通れば、正規ルートを通らずとも最短距離でスフィアエッグにたどり着く。
なにもかもが大きい。街は主を失ってもその姿を保ち、ふっと、巨人が建物の中から出てきてもおかしくはない。
旧人類の遺跡にくるたび、そんな思いに駆られる
「ぎいやあああああああああああ!!!」
バリゴの背中に、ALGワイヤーでくくり付けたグリトの絶叫が止まらない
彼はやはり、大物だ。
普通のケルバーなら一回目の跳躍で気絶している
これなら、全力で駆けても大丈夫だろう
バリゴ 機体解説
バリゴはエグゼクト革命軍の創立者である、再生構築士シェラルド・グペインが開発した、2種類の長距離移動型ケルバーダインの一つである
その特徴は、高低差がある場所の移動に特化していることだ。そのため、バリゴは50〜70cmに達する高いジャンプ力を持つ。
AD2360年を超えるとエグゼクト革命軍に参加、保護を求めるケルバーの人口が急増し、新しく彼らを住まわせる場所の確保が急務となった。
未開拓地域の探索には長時間のケルバーダインへの騎乗が必要になる。
だが、未開拓地域はの踏破においては高低差のある地形の移動が問題となった。
ほんの数十センチの高さでも、ケルバーやケルバーダインにとっては絶壁にも等しいのである。
バリゴは高低差を乗り越えるため、高いジャンプ力を求められたのだ。
しかし、ジャンプ力を高めるために脚部を伸ばすと、人体に近づくためミキシンクロレートが上昇し、長時間の活動ができなくなってしまう。
そこで、シェラルドは脚部ではなく腕を極端に大型化して、歩行器とした。
これは、シェラルドが旧人類の祖先である類人猿が樹上生活をしており、足で歩行するよりも腕で枝を掴んで移動していた、という文献から着想を得たものだ。
しかし、人体から大きく形状が異なるバリゴは、一般のケルバーでは自在に動かすことが難しかった。
そのため、多数のエグゼクスの経験があり、かつ、肩の筋肉が発達した、ボディビルダーさながらの姿を持つエグゼクト革命軍の創立メンバーの一人、バーリンドが騎乗者として選ばれた。
バーリンドはバリゴにより適応するため、常に肩を鍛えていたと伝わっている。
シェラルドによって作られたオリジナルのバリゴはより高く跳躍するために、軽い「紙」を用いて再生構築された。
だが、軽すぎて重心のバランスが悪く転倒しやすかったため、重戦車をイメージさせる重量感を強調させるRICが施されてその弱点を補っている。
バーリンドの子孫とその賛同者たちはその後、バリゴを使ってミキシングワールドの探索や新たに作られた開拓都市を繋ぐ、物流や移動に大きな役割を果たすようになった。
これがエグゼクト10氏族の一つ「バーリンド族」の始まりとなったのである。
バリゴの旧設定と再生構築過程はこちら
https://promodeler.net/2012/06/23/gkd06/
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