エグザディオン バトルストーリー『キレイにお掃除(MC0041年)』
「ぐぎゃああああああああああっ!!!」
リザレクトのケルバーダイン、ズーブンが巨大なツメに串刺しにされ、胴体が真っ二つになって地面に落ちる
GCHカプセル製の丸い胴体がごろごろと転がり、逃げ遅れたケルバー達を容赦なく轢き潰す
「なんだ!あのバケモノは!」
「あれはエグザンティスか! 死んだはずじゃなかったのか!」
「違う!似ているが、違う!エグザンティスはカマキリだ、あれは…… あれはなんなんだ!」
ここはリザレクト南方の小さな村……確か、ピエム村といったか?
我々エグゼクト第八軍は南方の目標地点への進軍中、この村にリザレクト軍が駐留しているとの情報を得た
取るに足りない少数の部隊であるが、叩いておかないと、進軍中に万が一にも後方から攻撃を受ける可能性がある…… 事前に憂いを断つ、との軍団長の判断による作戦だが……
駐留していたリザレクト軍のケルバーダインは、駆除されるギチのごとく、一方的に殲滅されている
その中心には、巨大な節足動物の姿があった
巨大なハサミ、火炎放射器を内蔵したクロー付きの尻尾
その鋭利で禍々しいシルエットは、見る者全ての背筋を凍らせる
死の電波が充満し、ケルバーが一歩入ると発狂するというシナリブラスタ砂漠に生息する巨大節足動物「スコーディオン」の姿をした、巨大なエグゼクスケルバーダイン
恐ろしい
我々エグゼクト第8軍でさえ、恐ろしくてたまらないのだ
「何者だ!エグゼクトの悪魔ががががあガッッップ!」
「私はエルメラ。エグゼクト第8軍の軍団長ですの。この子はエグザディオン。バケモノだなんて、失礼ですわ」
エグゼクト第八軍団長エルメラ大佐は、いつものように優しい、鈴が転がるような声で礼儀正しく説明しながら、リザレクトのケルバーダインを尻尾で薙ぎ払い、上下に分断した
「8軍の皆さん、ここもキレイにお掃除しましょう。私は掃除には厳しいですからね。チリ一つ、残したらメッですよ」
エルメラ様の「お願い」が全軍に伝達される。恐ろしい。ここにくるまでに「お掃除」してきた村や街がどうなったか…… 少し思い返すだけで、ケルバーダインに騎乗していても口から内臓全部を吐き出しそうな悪寒が体を震わせる
「くッ!ヴラド様さえいれば……!」
「そうそう。それです。それを聞きたかったんです。リオレラ姉さまが生前大変お世話になった純血の騎士さま。いま、どこにいらっしゃるの?」
「きさま、白亜の蟷螂の妹なのか!姉妹そろってリザレクトに敵を成す悪魔め!」
リザレクトのケルバーダインがエルメラ様を罵倒しながら、エグザディオンに果敢に刃を向ける
ああ、なんてことを!
「どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこにいるの?」
「ぎゃぐ、があっ、ぎっ、やがっ、たずけ、ぎっ!」
エグザディオンは歯向かうケルバーダインを尻尾で地面に押さえつけ、「どこ?」と尋ねるたびに手足をもぎり、一つ一つ、丁寧にパーツを引き剥がしていく
よりによって、リオレラ様の話題を出すなんて…… 黙っていれば、苦しまずに死ねたものを
エグゼクト第8軍の前軍団長…… リザレクトから「白亜の蟷螂」と恐れられたリオレラ様は1年前の第3次リザレクティア総攻撃で戦死された
エルメラ様は長く姉のリオレラ様を補佐していた
次の軍団長に指名されたとき、エルメラ様はリザレクティアから回収された、エグザンティスのパーツを自らのケルバーダインへと組み込み、エグゼクスした
エグゼクスは、ケルバーダインで戦って死んだものを魂を受け継ぐ崇高な行為だ
でも、ケルバーには器の限界というものがある
エグゼクスを重ね、自分の中の死者の意思が大きくなりすぎると、中身を詰め込みすぎた袋が破けるように精神に異常を来し、最終的には発狂して死んでしまう
エルメラ様の器は並のケルバーとは桁外れで、すでに多くのエグゼクスを経験していたとはいえ、姉の意思を受け継ぐのに問題は無い……はずだった
実際、エグゼクスしたあとも、ごく普通に振る舞われていたのだから
だが、戦闘になると、まるで人が変わったように、残虐行為を繰り返すようになってしまったのだ
以前の彼女は無益な戦いを好まず、攻撃的な性格だったリオレラ様と作戦計画で衝突するのは第8軍の名物だったというのに……
逃げ出そうとしたブリアードをハサミで叩きのめしたのを最後に、リザレクト軍のケルバーダインは全てゴミに還った
「お願いです!助けてください!」
村の中には逃げ遅れた民間ケルバーたちがまだ大勢おり、ひざまずいて命乞いをしている
「子供だけでも……」
「バケモノめ!お父さんとお母さんを返せ!お前なんて、純血の騎士さまが……」
ごう、と
エグザディオンの尻尾から炎が吹き出し、ケルバーたちを飲み込む
彼らは声をあげる間もなく、あっという間に黒い消し炭となった
家々に火がうつり、プラスチックが溶ける嫌な匂いと黒い煙が充満する
チラチラと、燃える炎がエグザディオンのゼノアイに反射し、煌々と輝いている
まるでキャンプファイヤーを眺める、嬉しくてたまらない子供のように
「もう、みなさん!なにをやっているんですか!軍団長の私ばっかり掃除してますよ!みなさんもお掃除頑張ってくださいね」
ピエム村には、もう我々エグゼクト8軍以外に生きているものはなかった
エルメラ様が振りまいた死の爪痕を片付ける、ほんとうの意味での「お掃除」を考えると気が重くなる
第8軍の目的地はここから南にある辺境のハンドレッド「ダー・イソー139」だ
たとえ辺境とはいえ、ハンドレッドは人口も多い
エルメラ様があそこにたどり着いたとき…… とても恐ろしいことが起きるだろう
不安のあまり、握り締めすぎたバテスの左マニピュレーターが、パキリ、と音を立てて砕け散った
エグザディオン 機体解説
エグザディオンはエグゼクト第8軍軍団長のエルメラ大佐が騎乗するエグゼクスケルバーダインである
エグゼクトのケルバーは死を恐れずに戦うが、これは「エグゼクス」という文化によるものである。
ミキシンクロレートが150%に到達し、ケルバーが機体と完全に融合、分離できずに暴走した機体は基本的には破壊されるが、このとき破壊されたケルバーダインの部品の中には、搭乗者の情報が色濃く刻まれている。
エグゼクトの戦士たちはこの部品を自らのケルバーダインに装着し、それにインし、かつての戦友の魂の一部を自らに取り込む。
死した戦士たちはその魂が受け継がれることで、永遠に生き続ける。
数多くの魂をその身に宿し、肉体に縛られた生命を「超える」究極の存在へと至る行いが「エグゼクス」なのだ。
ただ、他者の情報をそのまま自己に取り込む行為はケルバーに大きな負荷がかかり、器を超えたエグゼクスを行うと人格が崩壊してしまう。
だが、中には10、20、30と幾多のエグゼクスを重ねる者も存在し、情報密度が凝縮されることにより絶大なる戦闘力を発揮する。
彼らをエグゼクトのケルバーたちは「エグゼクス」の称号を持って讃えている。
「エグゼクス」たちが騎乗するケルバーダインの特徴は、人型にとらわれていないことだ。
通常、人型からあまりにもかけ離れてしまうとケルバーダインを自己の体と認識できなくなってしまうため、ケルバーダインはミキシンクロレートが安定する、ずんぐりとした人型をしていることが多い。
だが、エグゼクスを重ねたケルバーは情報密度の上昇により物体認識力が高まるため、人体からかけ離れた姿であっても自由に自分の体として動かすことが可能なのだ。
人型の枠に囚われない、戦闘に特化した形態と幾多のケルバーから収集した戦闘データの蓄積により、エグゼクスケルバーダインは絶大なる戦闘力を誇っている
エグゼクト第8軍はエグゼクト南西部のライケン大森林に居を構える、オルティンディ族を中心に構成された部隊である
オルティンディ族は熱帯雨林への適応として、現地に多数生息する昆虫の要素を取り入れたケルバーダインを活用している
元々、エルメラが騎乗していたのは「アシ・ダーカ」と呼ばれる蜘蛛型ケルバーダインであった
戦死した姉のリオレラが騎乗していたカマキリ型ケルバーダイン「エグザンティス」のパーツをエグゼクスしたことで大きく姿が変わり、エグザディオンへと進化した
ライケン大森林をさらに西へと超えたシナリブラスタ砂漠に生息する、凶暴な節足動物「スコーディオン」がそのモチーフとなっている
エグザンティスには「ソリッドフィニッシュ」というRICが施されている
これはケルバーダインの構成素材の色をそのまま活かしたもので、かつては安っぽい、と評価が低い技法だった
だが、再生構築歴に入ってウェザリング技術が急速に進化したことにより、全塗装と見まごう仕上がりも決して不可能では無くなった
塗装されていないため、攻撃で塗膜が剥がれることが少ないため、想像以上の防御力を誇る
しかし、日用品の色を全て揃えてケルバーダインを再生構築するのは十分な資源の確保が必要であるため、簡単そうに見えて一筋縄ではいかないのがソリッドフィニッシュなのだ
エグゼクト軍は10の軍団にわかれており、それぞれの軍団長は生物や過去の兵器を模した姿を持つ、強力なエグゼクスケルバーダインに騎乗している
彼らは単騎で箱庭都市を壊滅させるほどの戦闘力を持っており、リザレクト軍にとっては絶大なる脅威となっているのだ
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