ケルバーダイン オーヴォル(AD2341年製)バトルストーリー第九話『産むことしかできない』

オーヴォル バトルストーリー(AD2364年『産むことしかできない』)

見つけた! 工房に火を放ち、ラズとエルクを燃やして燃やして燃やしたケルバーを!

殺す。殺す。いや、ただ殺すぐらでは生ぬるい。

一族郎党、コイツの家族も全員ギチに食わせながら燃やしてやる!

グワン!と横からの衝撃によろめく

岩だ。岩が飛んでくる!

あれは……私が作ったケルバーダイン、バリゴだ。

バリゴがその巨大な腕……歩行器で、岩を蹴飛ばして私にぶつけているのだ

「邪魔をするなああああああああ!!!!!」

バリゴは早い。私のバテスでも、ヤツに追いつくことは難しい。

バリゴが邪魔であの糞ケルバーに近づけない!

何故だ!何故、私の邪魔をする!

お前が愛する☓☓☓の父と兄の敵がそこにいるというのに!

そこ………?そこにいない!

どこだ、どこだ、見失った!

「バーリンド、☓☓☓の敵を見失ったぞ!今すぐ探せ!」

「シェラルドさん、もうやめてくれ!自分の息子を殺すのか!」

息子? 何を言っている。

息子のエルクはパートナーのラズと一緒に燃えて死んだ。

あの冷静沈着なバーリンドが現実と妄想を混同している。

これは大きなストレスを受けたケルバーが発症する精神疾患「情報分散症」の初期徴候だ。

早く治療を受けさせねばならない。

「バーリンド、鎮静プログラムを打つ。じっとしていろ」

「なっ!早い!」

体が軽い。まるでケルバーダインとは思えないほど、馴染んだように感じる。

バテスでも、バリゴに一瞬で近づくことができた。
ミキシンクロレートが上昇しているのだろうか?

バリゴが驚いたように飛び退くが、遅い。
右腕の「鎮静プログラム」をバリゴに注入しようとしたとき

「クソババア、いい加減にしろおおおおお!!!!」

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左から強烈な一撃を受ける

体が浮き、地面をバウンドしながら転がる。

糞ケルバーの声だ。

糞ババア、だと?ケルバーには本質的に性別など存在しない。ババアというのは高齢の女性への蔑称だ。

私は断じて、ババアではない!

「鬼ババア!地獄ババア!!分からず屋!!頑固者!!サディスト!! ヒス女!! ケルバー不適合者!! 」

糞ケルバーが私に罵詈雑言を吐きながら、ケルバーダインで殴りかかってくる。

戦いもなにもない。むちゃくちゃだ。わがままを聞いてくれない子供が親にだだをこねるような。

ギインッ!と、糞ケルバーダインのグラインダーアームを弾き飛ばし、距離を取り、ヤツを見た。

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ずんぐりとした山のような姿に、巨大な右腕。

中心には爛々と開放型ゼノアイが輝き、私を射抜くように見つめ続けている。

「オーヴォル……!」

そんな、そんな、そんな。

オーヴォルは私が初めて再生構築したケルバーダインだ。
24年前、私がスフィアエッグに来たとき、街は地中から突然現れ、ケルバーを引きずり込んで食らうマオルの被害に苦しんでいた。

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マオルの穴に巨大なグラインダーアームで衝撃派を打ち込み、地上からダメージを与え、穴の外に引きずり出す。
対マオル用ケルバーダイン「モールタイプ」のプロトタイプとしてオーヴォルを作ったのだ

私はケルバーダインを作るのは得意だったが、操るのは下手で、オーヴォルを上手く動かせなかった
モールタイプを扱えるケルバーを探していて、ラズに出会ったのだ
初めてオーヴォルに騎乗したラズの言葉を思い出す

「すげえ! 力が湧いてくる! オーヴォルならマオルだろうがガットだろうがぶっ飛ばせるぜ!」

「はしゃぐな。オーヴォルはナチュラルパーツが多い。手足が千切れるぞ」

「すごいぞ! 見える!なんだ、この目は!どこまでも遠くまで見える!グロッフまで見える!」

「開放型ゼノアイだ。グロッフは反対方向だぞ。お前が見ているのはテペーニンリアルスケールモデル博物館だ」

そう。どこまでも。見える。

あのゼノアイはグロッフから唯一持ってこれた、母の形見だった。
グロッフは嫌いだった。
死んだ母のブリアードを、記念碑としてゴテゴテと飾り立てて衆目に晒していたのだから。
何度も何度も交渉して、やっと貰えたのはブリアードの排気管だけだった
母が見た景色を、少しでも見たい
だから、排気管を無理やりゼノアイに装着したのだ
完成したオーヴォルに初めてインしたとき……母とエグゼクスして流れ込んできた記憶

私は、母に生きていて欲しかった
ケルバーダインに乗って、ガットと戦うなんで別の誰かでいい
置いていかないで欲しかった

でも、母の「私に生きていて欲しい」という想いはそんなものではなかった
次元が違っていた。これが、母になるということなのか?

「おい。なんでこっちを見ている」

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考えにふけっていると、オーヴォルのゼノアイが私を凝視している。

「お前! よく見るとめちゃくちゃ美人だな!俺のタイプだ!結婚してくれ!」

「美人、などというのは女に使う言葉だ。ケルバーに男も女も無い。お前は旧人類へと退化している」

 ラズの言葉に胸がバクバクする。

 頬がカアっと赤らんで、体が熱くなる。そっぽを向いて叱責して誤魔化したけれど、おかしい。
 
 非論理的な感情だ…あんなことを言われて……嬉しい、と思うだなんて。

結局、ラズの押しに負けて私達は人生のパートナーになった。

ケルバーに厳密な雌雄は無い。

体を重ねれば、どちらも命を孕む。

ラズはエルクを生んだ。

エルクは優秀だった。ラズが持つ明るさと、私の知性。2つを備えて、優しく、強く、誰にでも好かれる。

そして、あの日、二人とも燃えて、私の前から母のようにいなくなった。

母は命をかけて私を守った。ラズとエルクは燃える工房から私を二人で外へと放り出して守った。

オーヴォルもあのとき燃えたはずだ!

「降りろ!それは私のオーヴォルだッ!」

オーヴォルは……オーヴォルだけは、傷つけたくない。

もう、大切なものを失いたくない

「わがままババア! トラブルメーカー! 教え下手! 料理下手! 好き嫌い多すぎ!」

罵詈雑言と共にオーヴォルが打ち付けるグラインダーアームを弾き飛ばしながら、じりじりと、工房の裏の崖へと追い詰めていく。

コイツはオーヴォルの性能をまったく引き出せていない。本来、バテスのパワーでオーヴォルが打ち負けることなどありえない。どれだけケルバーダインの操縦が下手くそなんだ。一体、親にどんな教育を受けたんだ?

でも……なぜ、糞ケルバーは私が料理下手で好き嫌いが多いことを知っているのだろう?

イライラする。認めたくないが、私のオーヴォルを奪った糞ケルバーは……どこか私に似ている。

何も出来なかった昔の私を鏡で見ているような。

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オーヴォルを崖っぷちまでおいつめる。

後ろは絶壁。下は激流渦巻く、ミキシングワールド有数の大河であるレジン川だ。

「オーヴォルから降りろ!」

糞ケルバーは動かない。あと一歩、後ろに下がればおしまいだ。

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あの日のように、オーヴォルのゼノアイが私を熱烈に見つめている……

「・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!」

糞ケルバーが……絶対に言ってはならないことを言った。

「ググ……ラ……アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

憎しみで、怒りで、体中に熱いドロドロの激流が渦巻いて。

その勢いのまま、バテス右手でオーヴォルの胴体を貫く

貫通し、胴体が千切れそうになるのも厭わず、糞ケルバーは私にしがみついて来る

やめろ、離せ、離せ、離せ………?

さん…あさん……かあさん…母さん……

糞ケルバーの声が………右腕から流れ込んでくる……

ラズはエルクを生んだ。

私は……私も……?

オーヴォルと繋がったことで、母のゼノアイから私の姿が見える

私のバテス……いや、もうバテスとも呼べない歪んだケルバーダイン。

「グ…ラ……ズ……ドレアアアアアアアア!!!!」

私がこれまで発していた言葉は、意味を持たない、おぞましい叫びでしかなかった

オーヴォルとゆっくりと融合していくたび、呼ぶ声が強く聞こえてくる

母さん……母さん……母さん……

伝わる。思い出す。

膨れる腹。撫でる手。生みの痛み。喜びと胎内から消えた喪失感。
小さな手。泣き止まない。絵本を読んだ。怖がった。どうしていいかわからなかった。
手を引く。坂道を下る。登る。
うずくまる。手を引っ張る。
違う。引っ張られているのは私だ。焼け跡にうずくまった私を、母さん、と呼びながらひっぱり、立ち上がらせ、小さな体で背負う姿。

「グ……リ……ト……!」

なんで、忘れていたんだろう
私の息子。グリトの記憶と体、魂がオーヴォルと共に私の中にどんどん入り込んでくる

「ググ……リ……ド……オオオオオオ!!!」

燃える街。歪むケルバー。
私が犯した数々の罪が、グリトの記憶と共に流れ込んでくる……!

ぐらり、と傾き、足が宙をかく。

もみ合っている間に、オーヴォル共々崖から転げ落ちる。

このままだと、親子揃ってレジン側の藻屑だ。

私が母として最後にできること。

生むことだ。

今ならわかる。私のバテス……いや、グラッズドレアにはケルバーの生命を操作する力がある。
取り込んだ情報を再構築して、グリトの体を作っていく。
あのとき、グリトを胎内で育てたように。

私は最低の母親だ。
子供をどう育てていいのかわからない。
どう向き合えばいいのかわからない。
産むぐらいしか、できることがない。

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再構築したグリトをオーヴォルのエジェクターから、崖の上へと射出する。

バーリンドが、バリゴの足でグリトを器用にキャッチしている。
彼がいれば、グリトは安心だろう

着水する衝撃と共に、私の意識は闇に沈んだ。

オーヴォル 機体解説

オーヴォルはシェラルド・グペインが開発した、「モールタイプ」のケルバーダインである

ケルバーダインの登場により、野生動物の捕食による危険は格段に減少した

だが、最後までケルバーを苦しめたのがマオルである。

マオルは旧人類からは「モグラ」と呼ばれたほ乳類であり、地中を自由に掘り進み、たとえ箱庭都市の中心であっても突然現れ、ケルバーを地面に引きずり込んで捕食した。
すぐ地面に潜って逃げるため撃退は困難なうえ、マオルの穴を通ってロデラなど別の野生動物が侵入してきたり、建造物が倒壊するなど、数々の二次災害を招いた。

モールタイプはマオルの撃退に特化したケルバーダインとして開発された
最大の特徴は巨大な腕部「グラインダーアーム」である。
グラインダーアームは強力な振動派を発生装置だ。


マオルは振動を嫌う。
マオルの穴にグラインダーアームで振動派を打ち込むと、その苦痛から逃れるためにマオルは地表へと顔を出す。
そこでトドメを刺すのがモールタイプの「マオル叩き」だ。

オーヴォルのゼノアイは2325年にグロッフでガットと相打ちになったブリアードの排気管がエグゼクスされている。
当時としては類を見ない、開放型のゼノアイは「中に虫が挟まって前が見えなくなるのではないか?」と古いケルバーには当初受け入れられなかった

モールタイプは対マオル用のケルバーダインであったものの、物理的な破壊力が凄まじく、土木工事や対ケルバーダイン戦闘においても有用であるため、ミキシングワールドの開拓と共に広まり、定番の機体となった。

 オーヴォルはあくまでモールタイプのプロトタイプであったため知られておらず、より発展した強化型である「グロッド」が2360年代までは各地で多用されていた。

 しかし、2364年に発生した「ガイストダイン事件」から帰還したエグゼクト革命軍のリーダー、グリト・グペインが改良型を開拓都市建設用に量産したため、一気に広まった。

 再生構築歴に入ってからはエグゼクト勢力圏内で多用されており、モデルチェンジを繰り返しながら、数多くの個体が稼働している。

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オーヴォルの旧設定と再生構築過程はこちら

https://promodeler.net/enjoyplamodel/klberdyne/

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