ケルバーダイン バトルストーリー第10話『ディアスポラ』

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ケルバーダインバトルストーリー 第10話(AD2366年『ディアスポラ』)

「とうとう、いってしまいましたね」
「ああ。いってしまった……」


旧人類の作った広大な道を、ケルバーダインの隊列が進んでいく
160年以上、誰も通ったことが無かった道
崩れ、ヒビが入り、あちこちに生える巨大な草の隙間から、得体のしれない生物の影がチラリチラリと見え隠れする
果てしない、答えの無い旅路
彼らは航海者であり、開拓者だ

新たな居住地を探して旅立つ者たちを、箱庭都市グロッフの最も高い尖塔から2人のケルバーが見送っている

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グロッフを火の海に変え、スフィアエッグに大災害をもたらした「ガイストダイン事件」

母のケルバーダインが崖下に叩き落とされ、レジン川の藻屑と消えた直後、エグゼクト革命軍の中心メンバーとグロッフ守備隊が連れ立って現れた

グロッフ側には……信じられない。PGの要人、ぜリック総督が直接来ていた

ぜリックはあのH・テペーニン博士の息子で、現在の箱庭都市群を束ねる最高責任者だ。PGが自身の肉体が保存されている箱庭都市から出ることなど、ありえない。
それだけ、母の起こした事件は異常事態なんだろう

ぜリックの傍らにはグロッフの守りを仕切る肉体世代最強のケルバー、ローガスがボディーガードとして控えている
ローガスはPGゆえにケルバーダインには騎乗できないが、生粋の武闘派軍人で、ケルバーの身でザンティスを倒したという伝説がある。本人に会う前は嘘っぱちだと思っていたけれど、彼の実力は本物だ。ロデラだって叩きのめせるだろう。もし、ローガスがケルバーダインに騎乗できたら……一人でエグゼクト革命軍を壊滅させても不思議じゃない

「シェラルド氏は?」

ぜリック総督がストレートに僕に問う

「母さんは……レジン川に……」

話そうとした瞬間、ふっ、と。膝からが抜け、崩れ落ちる

「グリト!」

リーゼント? という不思議な髪型と尖ったサングラスが特徴であるエグゼクト革命軍の切り込み隊長、ヴィスが目にも止まらぬ速さで地面に倒れる前に僕を抱き抱える

「博士は!博士はどこです!博士!」

母を神のように崇拝していた、助手のセレマがショートの銀髪を振り乱しながら、散らばった破片を片っ端からひっくり返している
崖下にいるよ、と伝えたらためらわずにレジン川に飛び込むだろう

「触っては…いけない。それは危険だ」

緑色の肌をした、岩の塊のような巨漢、ヴォルドムがセレマを摘み上げる。セレマは邪魔された怒りでヴォルドムを蹴飛ばすがビクともしない
ああ見えて、二人はカップルだ。子供も5人いる。ヴォルドムの押さえがなかったら、セレマは何をしでかすかわからない

「グリトはん。生きとるって信じてましたで〜♪」

ぜリックの隣で人懐っこい笑顔の小柄なケルバー、ラソイヤが手を振っている。この場を作ったのは交渉に長けた彼の手柄のようだ
彼の笑顔はどこまでも愛らしい。だが、どんなに笑顔で取り繕っても消えない、獲物を狙うガットのような瞳が全てを台無しにしている

「ああ!私は歴史的瞬間をまた見逃してしまった!グリト君!シェラルド総統の偉業を包み隠さず教えてくれたまえ!」

トンガリ帽子に全身を覆うマント。自称「吟遊詩人」ゼオルーンはこんな大惨事になっても呆れるぐらい平常運転だ。今すぐにでも、この事件を新しい詩物語にしてミキシングワールド中に広めまくりたいのだろう

「エグゼクト革命軍は……」

どうなったんだ、と聞く前にヴィスがバッチリだぜ! と親指を立て、心強くキメる。イイやつだが、コイツは人の話を最後まで聞くことができない

「大丈夫だ!今はバモリカとティンシュアサ、オルティンディが残ってみんなをまとめている!」

全然大丈夫じゃない。あの連中にみんなをまとめることなんて、できるわけないじゃないか……

「グリト・グペイン君」

ぜリックの一声で、場が静まり返る。

「私はエグゼクト革命軍と争う気はないし、君をこれ以上追求する気も無い。今回の事件の主犯はシェラルド・グペインの単独犯であり、君はそれを止め、多くのケルバーの命を救った」

深い声だ。和平交渉のとき何度も話したが、数百年を生き、数々の危機を乗り越えた……巨人であった過去を持つ者ゆえの重みを感じる
だが、その声は不思議と優しい。PGは生きれば生きるほど、感情が希薄になる。たとえリフレッシュを何度繰り返しても、オリジナルケルバーの体に無限の寿命があっても、魂の摩耗を止めることは決してできないからだ

でも、彼が僕を見る目は……たとえ無機質なゴーグル越しでも、悲しみと、懐かしさ。PGケルバー特有の、数多くのものたちを見送り飽きたゆえの諦めだけではない……不思議な暖かさを感じる

「だが、それは私の意見だ。グロッフ市民は今回の事件はエグゼクト革命軍によるだまし討ちであり、自分達を滅ぼそうとしていると恐れ、失った家族を嘆き、君たちを激しく憎んでいる。この感情を抑え込むことは、たとえ私の力を持ってしても、不可能だと言わざるを得ない」

バリゴに騎乗したままのバーリンドから強烈な威圧感を感じる。なにかあれば、僕を連れてここから逃げるつもりなのだろう。
だが、ここから逃げるわけにはいかない

ヴィスの腕を振り払う
ふらつきながらも自分の足で立ち、ぜリックのゴーグルを睨みつける

「我々はエグゼクト革命軍をグロッフ、スフィアエッグ、ヤーミダを中心とした箱庭都市区域、及びケルバーの生存に適した再生区域から追放することを決定した」

「みんな仲良くギチのエサになれってのか!!!」

喧嘩っ早いヴィスがゼリックに食ってかかる。すかさず襟首を掴んで止めていなかったら、彼は一瞬でローガスに叩きのめされていただろう。

「だが、これは表向きの理由だ。エグゼクト革命軍にはミキシングワールドの未踏地域を探索し、開拓し、増えすぎたKGたちの移住先を作ってもらう。我々はそれに全力で協力する準備がある。」

「それは……!」

それは母さんと同じ考えだ。増えすぎて食いっぱぐれたKGたちが生きるために、数多くの未開拓地域開発用新型ケルバーダインを開発していたんだから。

これまで、ずっとぜリックの隣で黙っていたローガスが口を開いた。

「箱庭都市は元々増えすぎた人類を収めるための箱だった。だが、箱はもうパンパンで、これ以上詰め込んでも争いしか起きない。歴史は繰り返す。今、お前達に順番が周ってきたのだ」

順番。人の次に、そして母の次に。

「昔、人は新天地を宇宙に求めたが……到達することはできなかった。「Xを超えるX」として、過去の人類を超える存在であるのが「エグゼクト」の意味なのだろう?」

ぜリックが問う。

「グリト君……君はどうする?」

この場にいる全てのケルバーの視線が僕に集中する。

「僕は………!」

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「ぜリック。言わなくて良かったのですか?」

「いいんだ」

「グリト君は貴方のひ孫でしょう?」

「私は彼女ギチのエサにした。グロッフをガットから取り戻すために娘を生贄にして、孫の心も壊してしまった。いまさら出てきて何を言っても恨まれるだけだよ。なにより、私からアレを受け継いていることを知られることが最も彼にとって危険なのだから」

「でも、なんだかんだ理由をつけてグリト君とバーリンド君が出発するのを最後にしたじゃないですか?」

「あのクソ親父に、こんな重荷を背負わされてるんだ。ちょっとぐらい約得があってもいいだろう?」

「グリト君、貴方に結構懐いてましたね」

「ああ。顔を見るたびに思い出したよ。まだ、こんなちっぽけな体じゃなくて、ゴーグル越しじゃない生身の目で空を見て、息子と手をつないで歩いていた頃を」

グリトとバーリンドが主導する開拓団の姿は、もう米粒にしか見えないぐらい、遠くまで離れていく

「世界を再生構築する種が広がり、芽吹き、育っていく」

「そうだ。だが、収穫をするのは私ではない。私の手には実った果実をもぎ取る力も意思も残っていないよ」

「次を起こすのですか?」

「そうだ。あと3回残っているからな」

「肉体の復活は?」

「知っているくせに。嫌なことを言う。今の箱庭都市連合はエグゼクト開拓団を自分たちの目の前から追い払うことで頭がいっぱいだ。リザレクション派の動きが活発になるのはもっと後だろう」

開拓団の姿は、とうに視界から消えていた

西暦2366年。増えすぎたKGを新たに住まわせるため、旧人類居住区の本格的な探索と開拓が始まった
エグゼクト革命軍改め、開拓団の主要メンバー10人はミキシングワールド各地で旧人類の遺跡を利用し、数多くの開拓都市を建造し、「エグゼクト10氏族」の始祖となった
そして西暦2400年。旧人類の大型行政施設を改修した最大の開拓都市「エグゼクトシティ」が完成する

KGはここに「エグゼクト」国家の樹立を宣言
肉体世代であるPGから独立し、対等な立場となることを求め、PGはこれを了承した。
対するPGは開拓事業の一段落したことで本来の目的である、人類の肉体への回帰を進める求心力を高めるために、箱庭都市連合の名称を「リザレクト」と改め、最古の箱庭都市グロッフは「復活都市リザレクティア」と呼ばれるようになった

ここに2000年以上続いた西暦はついに終わりを告げ、ケルバーによる新たなる時代「再生構築歴(MIXING CENTURY)」が始まったのだ

再生構築機界ミキシングワールドケルバーダイン

EPISODE1「ディアスポラ」完

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