グルヌ バトルストーリー (AD2316年『虫ケラ駆除』)
この体は素晴らしい。
「ベチャッ!ギチギチギチギギイイイイ!!ギジュッ!」
一歩足を進めるたび、腕を一振りするたび、バラバラになったギチ…… 私達の天敵である大型肉食ゴキブリの体が付近に降り注ぐ。
地面に落ちるたび「ギチャ」と嫌らしい水音が響くが、むしろそれが心地よい。
体が半分以上吹き飛んでも手足をバタつかせているギチがゴロゴロ転がっているが、すぐに他のギチが群がり、共食いを始める。
「ギチッ!ギチギチギチッ!ギチギチ…… ギチギチギチッ!」
大型のアゴで肉を噛み砕く耳障りな音。
逃げ遅れた母に群がったあいつらが嬉しそうに食事をしていたあのときと同じ音だ。
この体は素晴らしい。
あのとき、本当はギチを蹴散らし、母を助けたかった。
だが、私は母が食われている間に必死に走って逃げた。
あの日から15年、一日たりとて夢に見なかった日は無い。
この体は素晴らしい。まるで虫ケラのようにギチを駆除して、駆除して、駆除することができるのだから。
いや違う。奴らがそもそも虫ケラなのだ。
グルヌ機体解説
再生構築機界の住人にとって、欠かせない存在であるケルバーダイン。
グルヌはケルバーダインの中でも最も初期に造られた機体の一つである。
2301年に全人類の肉体の80%が破棄されていたことが判明し、世界は大混乱に陥り、数多くの箱庭都市が崩壊、数多くの人命や技術が失われた。
いわゆる、箱庭計画と共に世界が崩壊した「ターン・オーバーデイ(机をひっくり返した日)である。
箱庭都市の機能が停止すると共に、5cmサイズの人類はまったく想像もしていなかった外敵の驚異に晒されることになった。
昆虫やヘビ、トカゲ、ネズミなどの小型野生動物である。大型脊椎動物は箱庭計画以前に全て絶滅していたものの、人類が箱庭に閉じこもっている100年の間、外敵がいなくなった彼らは大繁栄し、強靭な進化を遂げていたのだ。
人類の第2の体となったケルバーは主に炭素化合物などの有機物で造られた生体ナノマシンで構成されていたため、希少なタンパク質など野生動物にとって魅力的な栄養素が数多く含まれていた。
そして、ケルバーは動きが鈍く、非力で、簡単に狩ることができた。
人類の祖先がアフリカの密林を追放され、サバンナで猛獣のエサとなったように、小型野生動物にとってケルバーは食べ放題の「ごちそう」となったのである。
ターンオーバーデイの影響で旧時代の技術が失われ、防衛機構もフルサイズの人体でないと動かせない仕様となっていたため、当初ケルバーは小型野生動物に対抗する術がほとんど無く、仲間がかじられる音の響きを耳を塞いで隠れて聞いているしかなかった。
野生動物への対抗策を模索する中、箱庭都市から脱出したKGたちが、外界に放置されていた旧世界の日用品を動かせることが判明した。
PG、KG双方の協力により、日用品に混入されている動作補助用ナノマシンの動きを伝達可能な特殊情報伝達接着剤「ゼノダイン」が開発される。これにより、日用品をつなぎ合わせて擬似的な機械を製造可能になり、野生動物になんとか対抗できるようになったのだ。
あるとき、ゼノダインで日用品を人型につなぎ合わせた機械を作ったものがいた。
いびつではあるが、かろうじて人型と呼べる姿である。
当時の記録は混乱期のため正確には伝わってはいないが、KGが動かそうとと手を触れたとき、すう、と内部に吸い込まれてしまったのだ。
当初は事故と思われたものの、吸い込まれたケルバーは消失しておらず、人型機械を自分の体と同じように自由に動かすことが可能であることが判明した。
この機械は生身のケルバーよりも機動力、攻撃力、防御力に優れており、当時ケルバーを捕食して大繁殖していたギチやザンティスのような大型肉食昆虫を駆逐することが可能になったのである。
この機械は人類の第3の体、力強き戦闘要強化素体「ケルバーダイン(KLBER DYNE)」と命名され、現存する箱庭都市にまたたくまに広まっていったのである
グルヌは最も初期に造られた機体の一つであり、黎明期のケルバーダインの特徴を数多く有している。
素材はハンドレッドから採掘されたものを一切使用しておらず、拾ってきたものだけで再生構築されている。
この、拾ったものだけからの再生構築法は「ナチュラルビルド」と呼ばれている。
当時、ケルバーたちが探索できる範囲は崩壊した箱庭都市のごく周辺に限られており、部品数が少なく、形状もかろうじて人型に見えるか、見えないかレベルでしかない。
極初期のケルバーダインがなによりも重視したのは防御力であった。これはある程度の防御力があれば、ほぼ小型肉食動物の攻撃を防ぐことが出来たためである。
重いが、頑丈で旧人類居住地にて豊富に入手可能であった「WUKセラミクス装甲」が多様されている。
このグルヌは主武装に「KDBキャノン」を装備している。
一撃あたりの攻撃力は高いが連射はできず、昆虫の群れを駆逐するには不向きな武装であるが、当時はケルバーダインの開発はまだ手探りの状態であり、また使える素材も非常に少なかった。そこであるもので戦うしか生き延びる術はなかったのだ。
グルヌはケルバーダイン技術の進化や、生活基盤の安定により2350年以降は実用目的で大量生産されることほとんど無くなった。
黎明期のケルバーダインの特徴として構造的に脆かったため、再生構築歴が始まる西暦2400年頃にはナチュラルビルドのグルヌは完全に姿を消している。
「グルヌ」の名称は旧時代に存在したフランス語で食用ガエルを意味する「グルヌイユ( grenouille」から命名されたものだ。
これは当時、ギチやザンティスなどの肉食昆虫を難なく捕食するカエルをケルバーたちが力強い生物と見なし、それにあやかったためである。
グルヌの再生構築過程と旧設定はこちら
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